日銀小切手
[供託金の還付、取り戻しは現金のほか、日銀小切手でもうけとることができる。
では、日銀小切手というのは、どういう「顔」をしているのだろうか。小切手マニアとしては、たいへん気になるところである。
そこで調べたところ、「新しい日本銀行―その機能と業務 (増補版)」(2004年・有斐閣)という本の80ページに写真が載っていた。
供託金の還付、取り戻しは現金のほか、日銀小切手でもうけとることができる。
では、日銀小切手というのは、どういう「顔」をしているのだろうか。小切手マニアとしては、たいへん気になるところである。
そこで調べたところ、「新しい日本銀行―その機能と業務 (増補版)」(2004年・有斐閣)という本の80ページに写真が載っていた。
韓国の手形小切手法で、「無条件の委託」の表現が登場したのは最近の改正からだと想像していたが、そうではなかった。1962年の自足立法からこの述語が登場している。
日本では単行法になったときに商法の「単純ナル」の表現をそのまま引き継いでいるが、日本法をそれぞれ異なる時代に継受した中国(戦前・日本の手形法小切手法の制定作業時)と韓国(戦後・日本の手形法小切手法を翻訳)では、当初から「無条件」の表現になっている。想像するに、立法者らの参照した日本法の解釈(田中耕太郎のような気がする。)が、そうなっていたからではないだろうか。
改正前の韓国手形法は、つぎのとおり。
어음法 [제정 1962.1.20 법률 제1001호]
第1條 (어음要件) 換어음에는 다음의 事項을 記載하여야 한다.
1. 證券의 本文中에 그 證券의 作成에 使用하는 國語로 換어음임을 表示하는 文字
2. 一定한 金額을 支給할 뜻의 無條件의 委託
3. 支給人의 名稱
4. 滿期의 表示
5. 支給地
6. 支給을 받을 者 또는 支給을 받을 者를 指示할 者의 名稱
7. 發行日과 發行地
8. 發行人의 記名捺印
直訳すると、こうなる。
第1条 (手形要件) 為替手形には次の事項を記載しなければならない。
1. 証券の本文中にその証券の作成に使用する国語で為替手形であることを表示する文字
2. 一定の金額を支給する旨の無条件の委託
3. 支給人の名称
4. 満期の表示
5. 支給地
6. 支給を受ける者または支給を受ける者を指示する者の名称
7. 発行日と発行地
8. 発行人の記名捺印
附則は次のようになっている。
第85條 (施行期日, 舊法의 廢止) ①本法은 1963年 1月 1日부터 施行한다.
②朝鮮民事令 第1條에 依하여 依用된 手形法은 本法施行時까지 效力이 있다.
本則(78条まで)は、旧法(日本手形法)と全く同じ規定。単に韓国語に置き換えただけだが、述語は微妙に日本法とは異なっている。
小切手法も日本法と全く同じ規定。
手票法 [제정 1962.1.20 법률 1002호]
第1條 (手票要件) 手票에는 다음의 事項을 記載하여야 한다.
1. 證券의 本文中에 그 證券의 作成에 使用하는 國語로 手票임을 表示하는 文字
2. 一定한 金額을 支給할 뜻의 無條件의 委託
3. 支給人의 名稱
4. 支給地
5. 發行日과 發行地
6. 發行人의 記名捺印
この言葉がどこから出てきたのは、さらに調査が必要だ。
このころ(依用からの脱却時)の韓国の立法は、日本法をそっくりそのまま翻訳しつつも、解釈のゆらぎを日本の裁判例や有力学説に即して、条文に反映させる作業を行っている。いわば、最近日本でやった法典の口語化大改正の先取りをやっている。
*韓国法の改正履歴を調べるには、法制処が使える。
홈 > 종합법령정보 > 연혁법령 (ホーム > 総合法令情報 > 沿革法令)を選択。法令名や公布番号で検索できる。
ただし、出来が悪いので、ブラウザはIEを使うほうがよい。
「単純ナル」の文言が、いつから入ってきたのかについて調べたところ、明治32年の商法からだった。それ以前、明治23年の旧商法では「相違ナク支払」、明治26年改正では「條件ヲ付スルコトヲ得ス」との規定がある。
ひとまず、条文を制定順に列挙してみる。
*漢字の變換には、「まるやま君」及ひ「misima」を使はせて貰つた。
爲替手形約束手形條例 [明治15年12月11日太政官布告第57號]
第一條 爲替手形ハ振出人ヨリ支拂人ニ當テ記載ノ金額ヲ受取人又ハ其所有權ヲ受ケタル人ニ拂渡サシムル證劵ヲ謂フ
第二條 爲替手形ニハ左ノ件々ヲ記載シ振出人記名調印ス可シ
一 金額
二 振出ノ年月日及ヒ場所
三 支拂ノ期限及ヒ場所
四 支拂人ノ氏名
五 受取人ノ氏名
六 受取人又ハ其所有權ヲ受ケタル人ニ支拂フ可キ旨
司法省『類聚法規』第五編下に登載
いくつかの文献で、明治15年太政官布告第17号と記されているものがあるが、57号が正しい(原資料は「陸軍省大日記」にある(防衛庁防衛研究所に所在)。アジア歴史資料データベースで閲覧できる。レファレンスコード:C04017613500)。
そして、ロエスレルによる旧商法(明治23年法律第32號)の制定に伴い、手形小切手は商法典で規定されることとなる。通説では、この規定はドイツ商法の影響だという(要検証、田中耕太郎は違うことを言っていたかもしれない。)。
第六百九十九條 手形ハ或ル金額カ相違ナク支拂ハル可キ旨ヲ明記シ指圖式又ハ無記名式ニテ發行スル信用證劵ニシテ合法ノ原因ヲ當然含有スルモノタリ
第七百十六條 爲替手形ニハ左ノ諸件ヲ明瞭詳密ニ記載スルコトヲ要ス
第一 振出ノ年月日及ヒ場所
第二 爲替金額但文辭ヲ以テ記ス可シ
第三 支拂人ノ氏名
第四 受取人ノ氏名又ハ其指圖セラレタル人若クハ所持人ニ支拂フ可キ旨及ヒ滿期日竝ニ支拂地
第五 爲替手形ト引換ニテ支拂ヲ爲ス可キ旨
第六 振出人ノ署名、捺印
(未施行)
これが明治26年の改正(このとき、手形小切手法などが部分的に施行される。)によって、次のように改められた。
第六百九十九條 手形ハ或ル金額カ支拂ハル可キ旨ヲ明記シ指圖式又ハ無記名式ニテ發行スル信用證劵タリ
手形ニハ條件ヲ付スルコトヲ得ス
このように改正された理由は何か。一応、つぎのような説明がなされている(井上操(1893)『改正商法述義』会社法・手形法・破産法:12章p.2-4)。
商法原文ニハ「手形ハ或ル金額カ相違ナク支拂ハル可キ旨ヲ明記シ指圖式又ハ無記名式ニテ發行スル信用證劵ニシテ合法ノ原因ヲ當然含有スルモノタリ」トアリシヲ改正法律ニ於テハ「相違ナク」ノ四字及ヒ「ニシテ合法ノ原因ヲ當然含有スルモノ」ノ十七字ヲ削除シ更ニ本條第二項ヲ設ケ「手形ニハ條件ヲ付スルコトヲ得ス」ト規定セリ是レ「相違ナク」支拂フト「條件ナク」支拂フトノ趣意ナリシモ法文上ヨリイフトキハ條件アルモ相違ナク支拂フトイヒ得ルニ依リ之ヲ削リテ第二項ニ於テ明ニ之ヲ規定シ又手形カ信用證劵ナル以上ハ當然合法ノ原因ヲ有スルコトハ法文ヲ待タスシテ明ナルニ依リ之ヲ削除シタルモノナリ
つまり、語義を明確にするための改正だということのようだ。外国法を参照しているのだとすれば、この部分のネタもとの原文にあたってみる必要がある。最初は「相違なく」と訳したが、あとで「条件なく」に訳語を置き換えただけなのかもしれない(要確認)。
そして、現行商法(明治32年法律第48号)によって、つぎのように改められた。
第五百三十條 小切手ニハ左ノ事項ヲ記載シ振出人之ニ署名スルコトヲ要ス
一 其小切手タルコトヲ示スヘキ文字
二 一定ノ金額
三 支拂人ノ氏名又ハ商號
四 受取人ノ氏名若クハ商號又ハ所持人ニ支拂フヘキコト
五 單純ナル支拂ノ委託
六 振出ノ年月日
七 支拂地
規定振りも相等変化しているし、述語の使い方が大きく異なることから、旧商法と現行商法では、手形小切手の条文は、異なる法域の規定を継受しているように思われる(直感だけど)。「条件を付すことを得ず」なんてのは、なんとなくイギリスっぽい。それに比べて、現行法の「単純なる委託」は、かねてから指摘しているとおり、フランスっぽい。大陸風だ。
一説に拠れば旧商法の手形法の規定は仏、独、英法を参照し、現行商法はドイツ法一辺倒になっているという(誰がそんなこと言っていたのかは、後日要調査。田中耕太郎か?)。
ひとまず、きょうはここまでにする。
今後の予定:
野津務(昭12)『手形法変遷論』を読む(日大法学部にあり、NDC:325.61)
改定前の韓国法と、改定時の立法趣旨を調査
ロースクールの図書室で、「単純ナル委託」について、コメンタールはどう解釈しているかを探した。
平出ら[編](1997)『手形・小切手法 注解法律学全集25』青林書院:
この本では、「単純なる」を、手形・小切手の金額の一定や、物品手形が認められないことの意味に解していると思われる(手形編 p.49, 小切手編 pp.7-8)。
このように、「一定ノ金額ヲ支払フヘキ旨」が「単純ナル」の例示であると理解し、券面額の確定した金銭債権を要求することの意味に解する説が多い。これが、通説であると思われる。
つぎに、某大学の図書館で、資料収集。きょうは昭和初期の文献を探した。
田中耕太郎(1937)『手形法小切手法概論』訂正版、有斐閣:
支払の委託(mandat de payer, order to pay)は単純(pur et simple, unconditional)なることを要する。此の故に或は支払に条件を附し、或は資金を限定して又は、支払の方法を限定するが如きは(英三条三項前段参照)支払委託の単純性を害し、手形を無効ならしむる。支払文言には別に制限が無い。(p.262; 小切手についても同じ。)
田中耕太郎説は、「単純ナル」が unconditional/pur et simple の訳語であることを明記しているが、その意味は、資金の限定、支払方法の限定などの「支払委託の単純性を害」する有害的記載事項に向けられている。
田中はその説明としてイギリス法を参照しているが(実際に他の箇所で、日本の手形小切手法は、フランス法から英米法に内容が変わったと述べていた。要確認。)、しっくりとこない。なぜかというと、イギリス法では、資金の限定、支払方法の限定などを unconditional order についての言及とは別個の要件として規定している。Unconditionalであるべき理由は、証券の流通性を確保するためであるとされる。田中を含めて、日本の手形小切手法の解説では、この点に触れたものがない(たぶん)。
うまく説明しきれていないが、もし田中が英法と同様に解釈していたとすれば、「単純なる委託」は、支払の条件、資金の限定、支払方法の限定などとは「並列」の要件として解釈すべきではないだろうか。英法では、「単純なる委託」の要件は、証券の流通性(negotiability)を害さないための要件の一つとして、他の無条件・条件付となる事項と並列に列挙されている(アメリカでも同様, see UCC3-104,105,106)。すくなくとも、「単純なる委託」は、他の要件の性質の一般的説明ではなく、独立した規定になっているし、規定振りからして、確定金額の支払の説明ではない(3-105,106)。言い換えれば、「無条件の委託」が手形小切手の原則であって、そのように看做される・推定される(黙示又は事実上の)条件として、資金の引当てなどの規定が置かれている。
イギリス法及びUCCのいう unconditional order の意味は、日本の通説にはない概念が含まれている。
ストーン(1994)『アメリカ統一商法典』木鐸社:p.203
約束手形や為替手形に、支払の約束や指図に加えて、「もし6月8日にイチゴが我々に引渡されれば」とか、「6月8日に我々にイチゴが引渡されることを条件として」等という条件が付けられていたとしよう。証券を購入した者にはこの条件が満足されているかどうかわからないので、このような条件は証券の自由な流通を妨げるものである。従って、このような条件付の証券は流通性を欠く(§3-104(1)(b))。
UCCは3-104で(支払の約束・指図の)明示の条件について規定し、3-105で、「別契約を証券の一部にしている場合」と「別契約が証券で言及されているに過ぎない場合」に、約束・指図が無条件あるいは条件付になるかを規定する。つまり、UCCは明示の条件を”unconditional order/promise to pay”として規定し、それ以外に条件付となる場合を、券面の記載から判断する構成になっている。
いってみれば、日本の手形小切手法の通説では、3-105にあたる規定のみが存在するように解されていて、3-104に相当する規定が独立に意味をなすことについては、ほとんど無視されているように思える。
気分を変えて、つぎにいってみよう。
日本の手形小切手法を継受した法域では、どのように表現しているのか確認。
日本の小切手法と同時期に成立した中華民国の手形法(票據法:民国18年、1929年)は、日本の商法(志田案)を下敷きに、フランス商法(Escarra案)を加味して制定された。エスカラは国際条約を参照しているようだが、条約からは直接規定されていないという(村上貞吉(1931)『中華民国手形法』p.40-42)。この法律では、日本法では「単純ナル」としている pur et simple にあたる部分を、「無条件」と表現している(同法21条1項5号「無条件支付之委託」)。この述語の使い方は、最近の立法(1960年マカオ)にみられるものと同じだ。マカオは条約の訳出にあたってこの旧法(数次の改正があったが、台湾では現行法)も参考にしていると思われるが、当初から「無条件」と訳出しているところが、意外だった。
韓国の小切手法(手票法[수표법] 法律第5010号)も、最近(?)の改正で「無条件」に改めたようだ。依用から脱却した1962年改正では、どうなっているのか、要調査。なお、1963年1月1日の施行前は、朝鮮民事令によって手形法、小切手法が依用されていた。 http://kr.dic.yahoo.com/search/enc/result.html?pk=16029900
第1章 手票의 發行과 方式
第1條 (手票要件) 手票에는 다음의 事項을 記載하여야 한다. < 개정 1995.12.6>
1. 證券의 本文中에 그 證券의 作成에 使用하는 國語로 手票임을 表示하는 文字
2. 一定한 金額을 支給할 뜻의 無條件의 委託
3. 支給人의 名稱
4. 支給地
5. 發行日과 發行地
6. 發行人의 記名捺印 또는 署名
きょうは会社法の特別授業。おわってから、調べものをした。きのうの夜の続きだ。
まず、条約の原文を探したところ、国立公文書館にあった。外務省が翻訳したのは、英語とフランス語が併記されているものだった。
フランス語のタイトルは、 la Convention portant loi uniforme sur les chèques, avec Protocole et Annexes となっている。
きのう推測したとおり、フランス語では、Annexe I, Chaptiere I, Article premier の第2号は、やはり”pur et simple”になっていた。
2. Le mandat pur et simple de payer une somme determinee;
同じ箇所の英語はこうだ。
2. An unconditional order to pay a determinate sum of money;
UCC3-104の規定振りと同じだ。
“Pur et simple” と “unconditional” のどちらも、 “mandat/order” に対して「副詞的」にかかっている。つまり、振出人が条件なく委託するということであって、支払人が無条件に支払うということではない。UCCでの定義と対比するとよくわかる。約束手形と違って、小切手の場合ではこの意味の違いは、小切手の効力に大な差を生む。
では逆に、conditional order とは何かと言うと、委託の成立に際して条件がついていることをいうのだと思う。
身近な例で言えば、証券会社に「日経平均が16,000円を下回っているならば、日立製作所を1000株成り行きで買い」という注文を入れることは、an conditional order to buy になる。 (“Conditional order” という用語は、株や外国為替、コモディティなどの市場取引では一般的に用いられる。 http://www.investopedia.com/terms/c/conditionalorder.asp)
「支払いについて条件を付す」という意味に解釈することは、文法的にも、慣用的にも、間違っていると思う。そうではなく、1条2号は、支払委託の成立について、条件がないということと解するべきだと思う。
そうすると、手形小切手法を解釈している本には、誤っているものが多いといえる。持参人に支払うときに条件をつけないとの意味に解しているものが結構ある(具体的な書名は、後日書く。)。支払いの委託は単純でなければならず、それに条件を付記してはいけないと解しているものもあった(河本・田邊編 (1989) 『手形小切手法小辞典』 中央経済社 ISBN4-502-70020-7)。これは「単純」を「無条件」とは違う意味に捉えており、なぜそう考えたのかはわからないが、ユニークだ。
前田庸『手形法・小切手法』は、UCC3-104(a)に言及し、約束手形につき「無条件の支払約束(a unconditional promise)であることを要件としている。」と述べている(不定冠詞は”an”の誤植だろう)。小切手など支払委託の場合、「無条件」が振出行為にかかるのか、支払行為にかかるのかということについては、言及していない。(前田先生はどう理解しているのか、後日別の本もあたってみる。)
次に、「単純ナル」の文言に注目して、なんでこんな用語があてられているのか、そのルーツを探ってみたい。
小切手法の立法の直接の経緯は、昨日調べたとおり1931年ジュネーブの小切手統一法条約なのだが、同様の規定は、商法(明治32年法律第48号)530条にも置かれていた(小切手法の制定によって削除された。)。
第五百三十条 小切手には左の事項を記載し振出人之に署名することを要す
一 其小切手たることを示すへき文字
二 一定の金額
三 支払人の氏名又は商号
四 受取人の氏名若くは商号又は所持人に支払ふへきこと
五 単純なる支払の委託
六 振出の年月日
七 支払地
(原文は漢字カナ混じり文)
5号の規定ですでに「単純なる支払の委託」という文言が登場する。この起源は何なのか、実はまだ調べきれていない。
歴史的には、小切手法はつぎのような変遷をたどっている。
為替手形約束手形条例はフランス法を継受しているらしい(要調査)。
フランス法を直訳したと考えると、pur et simpleを「単純ナル」と直訳したとしても無理はない。ただし、最近の仏和辞書では、「無条件の;単純な」「(条件なく)単純の」というように、条件の有無を強調している。
なぜこの述語を用いるようになったのか、その理由について考えてみる。まず思い浮かぶのがボアソナード*だ。
*このblogには教会関係者が多く訪れるようなので説明すると、旧民法などを起草したのがボアソナードというフランス人。彼はカトリックの熱心な信者で、東京の教会に大きく貢献している。彼の寄付した鐘のレプリカは、カテドラルに展示してある。ちなみに、旧商法と明治憲法を起草したドイツ人のロエスレルはプロテスタントからカトリックに改宗したために職を追われ、日本に来ることになったのだそうだ。 (二人の写真はこちらhttp://www.moj.go.jp/SHIRYO/shiryo06.html
)
ボアソナードの民法草案に際して用意されたのが、仏和の法律用語集「民法応用字解 」(明治21年発行)のようだ。復刻版(4万数千円!)はロースクールにもあるが、この本は、国会図書館で電子化している。 http://kindai.ndl.go.jp/cgi-bin/img/BIImgFrame.cgi?JP_NUM=40025823&VOL_NUM=00000&KOMA=1&ITYPE=0
この本は “pur et simple” について、次のように説明する。
単純なる 形容詞 ピュル、エ、サンプル
唯一にして渾(まじ)らさるの意なり。故に単純なる義務と云へは其義務の生するや否や直ちに完全の執行を要むるヿ(こと)を得るものにして夫の期限未必条件其他種々の変体の附着せさる義務を云ふなり。而して場合に従ひ斯の如き性質のものを純を略して或は単一なる或は単独なると記載するヿあり。是れ只其場合の文体に随ひその文字を異にせしと雖も其実に於ては毫も異らさるなり(第九百二十一条第九百四十七条第九百七十二条第九百七十三条)
(原文は漢字カナ混じり文)
“Condition”の訳としては、「条件」の文字があてられており、今日とほぼ同じ意味に定義されている。フランス語から日本語に翻訳する際には、「条件」と「単純」の使い分けが存在していたのか、あるいは、 “sans condition” と “pur et simple” が同じ意味をもつ場合があることに気がついていなかったのかもしれない。
おそらく、フランス小切手法には le mandat pur et simple という規定があって、これの述語として、民法典と平仄をあわせて「単純ナル」をあてたのではないだろうか。そのときに、形容詞の係り方があいまいな条文を制定してしまったために、今日意味が混乱しているのではないだろうか。
立法者や当時の学者がこの条文をどのように解釈していたのか、調べる必要がありそうだ。 案外、立法者はフランス法を正しく理解していたのに、日本語の条文があいまいなために、後になって誤解が生じただけなのかもしれない。