こんな裁判例がありました。(東京地裁八王子支部平成9年7月4日判決、判タ969-278)
窃盗・業務妨害・電波法違反被告事件なのですが、盗んだ鉄道無線機(防護無線通信装置)を自動車で持ち運んで、繰り返し電車を停止さて喜んでいたという無線&鉄道マニアの事件です。
数名の共犯のうち1人の分離公判です。被告と共犯者は、「無線の趣味を通じて知り合った仲間であり、判示第一のタクシー協同組合に無線担当として○及び○に次いで、同人らの誘いもあって、同組合に就職した」というのですから、よほどの無線好きです。
判決理由中の犯罪事実には、つぎのように書いてあります。
第二 別紙一覧表記載のとおり、前記〇〇らと共謀の上、窃取に係り、携帯用に改造した防護無線通信装置から電波を発射して、東日本旅客鉄道株式会社(代表取締役松田昌士)の旅客鉄道業務を妨害しようと企て、郵政大臣の免許をうけず、かつ、法定の除外理由がないのに、平成八 年四月八日午後五時一九分ころから同年五月三日午後一〇時三八分ころまでの間、前後二回にわたり、千葉県船橋市海神町二丁目六四六番地付近から同県市川市 平田四丁目一番一三号付近に至るまでの道路上を走行する普通乗用自動車内等において、前記の携帯用に改造した防護無線通信装置を携帯して周波数三七三・二 七三六メガヘルツの電波を多数回発射し、同県船橋市西船四丁目二七番七号所在の右東日本旅客鉄道株式会社西船橋駅構内ほか一三か所において、運行中の同社 が運行管理する電車延べ二一列車に各設置してある防護無線通信装置に同電波を受信させ、右二一列車を緊急停止させ、又は、発車を見合わせるなどさせてその 運行を遅延させ、もってそれぞれ偽計を用いて右東日本旅客鉄道株式会社の業務を妨害するとともに、無線局を開設して運用したものである。
で、裁判官は、量刑事情として、こんなことを言っているのです。
「無線趣味と鉄道趣味が合体した極めてマニアックな集団による犯行」
…。無線趣味と鉄道趣味の合体って、自分の身の回りだと、ごく普通にあるけれど。たしかにマニアックだけれど、「極めて」というほどでもないような。
ちなみに、この判決には、罪数関係に間違いがあるように思える。
判決文の「法令の適用」の中で、「電波法違反の点は、各無線局開設及び各運用につき包括して」とある。無線局の開設が「平成八年四月八日午後五時一九分ころから同年五月三日午後一〇時三八分ころまでの間、前後二回」あったと認定しているのだが、はたしてそうだろうか。
この事件では、「携帯用に改造した防護無線通信装置」を使用しているので、いわゆるポータブル(可搬型ないし携帯型)の無線機を使った移動局にあたる。そして本件では、同じ無線設備を、おおよそ1ヶ月以内に、移動中または駐車中の自動車から運用している。
このようなポータブルの無線機を使用する移動局の場合は、一旦無線局を廃止(たとえば無線機を使えない状態にするなど)しない限りは、開設の行為は1回とみるのが自然だ。現行の電波法4条には、「無線局を開設しようとする者は、総務大臣の免許を受けなければならない。」とあるけれど、たとえば、携帯用のトランシーバーを車に持ち込むような場合は、「開設」にはあたらないというのが、行政実例だと思う。(だからこそ、移動局には「常置場所」という概念が存在する。)
無線局の開設とは、無線設備を設置し、それを操作する者が電波を発射できる状態にすることをいうのであるから、本件のような移動する無線局の場合は、無線機を改造して、いつでも電波を飛ばせる状態になったあとに、これを運用しようという意思が生じた時点が、無線局の開設なのではないだろうか。本件の場合、すくなくても、第1回目の電波発射よりも前に1度、無線局の開設があったと認定することができるけれど、開設行為が2回あったと認定するのは、判決文から想像するに、無理だと思う。