手形小切手法 (その4)
[「単純ナル」の文言が、いつから入ってきたのかについて調べたところ、明治32年の商法からだった。それ以前、明治23年の旧商法では「相違ナク支払」、明治26年改正では「條件ヲ付スルコトヲ得ス」との規定がある。
ひとまず、条文を制定順に列挙してみる。
*漢字の變換には、「まるやま君」及ひ「misima」を使はせて貰つた。
爲替手形約束手形條例 [明治15年12月11日太政官布告第57號]
第一條 爲替手形ハ振出人ヨリ支拂人ニ當テ記載ノ金額ヲ受取人又ハ其所有權ヲ受ケタル人ニ拂渡サシムル證劵ヲ謂フ
第二條 爲替手形ニハ左ノ件々ヲ記載シ振出人記名調印ス可シ
一 金額
二 振出ノ年月日及ヒ場所
三 支拂ノ期限及ヒ場所
四 支拂人ノ氏名
五 受取人ノ氏名
六 受取人又ハ其所有權ヲ受ケタル人ニ支拂フ可キ旨
司法省『類聚法規』第五編下に登載
いくつかの文献で、明治15年太政官布告第17号と記されているものがあるが、57号が正しい(原資料は「陸軍省大日記」にある(防衛庁防衛研究所に所在)。アジア歴史資料データベースで閲覧できる。レファレンスコード:C04017613500)。
そして、ロエスレルによる旧商法(明治23年法律第32號)の制定に伴い、手形小切手は商法典で規定されることとなる。通説では、この規定はドイツ商法の影響だという(要検証、田中耕太郎は違うことを言っていたかもしれない。)。
第六百九十九條 手形ハ或ル金額カ相違ナク支拂ハル可キ旨ヲ明記シ指圖式又ハ無記名式ニテ發行スル信用證劵ニシテ合法ノ原因ヲ當然含有スルモノタリ
第七百十六條 爲替手形ニハ左ノ諸件ヲ明瞭詳密ニ記載スルコトヲ要ス
第一 振出ノ年月日及ヒ場所
第二 爲替金額但文辭ヲ以テ記ス可シ
第三 支拂人ノ氏名
第四 受取人ノ氏名又ハ其指圖セラレタル人若クハ所持人ニ支拂フ可キ旨及ヒ滿期日竝ニ支拂地
第五 爲替手形ト引換ニテ支拂ヲ爲ス可キ旨
第六 振出人ノ署名、捺印
(未施行)
これが明治26年の改正(このとき、手形小切手法などが部分的に施行される。)によって、次のように改められた。
第六百九十九條 手形ハ或ル金額カ支拂ハル可キ旨ヲ明記シ指圖式又ハ無記名式ニテ發行スル信用證劵タリ
手形ニハ條件ヲ付スルコトヲ得ス
このように改正された理由は何か。一応、つぎのような説明がなされている(井上操(1893)『改正商法述義』会社法・手形法・破産法:12章p.2-4)。
商法原文ニハ「手形ハ或ル金額カ相違ナク支拂ハル可キ旨ヲ明記シ指圖式又ハ無記名式ニテ發行スル信用證劵ニシテ合法ノ原因ヲ當然含有スルモノタリ」トアリシヲ改正法律ニ於テハ「相違ナク」ノ四字及ヒ「ニシテ合法ノ原因ヲ當然含有スルモノ」ノ十七字ヲ削除シ更ニ本條第二項ヲ設ケ「手形ニハ條件ヲ付スルコトヲ得ス」ト規定セリ是レ「相違ナク」支拂フト「條件ナク」支拂フトノ趣意ナリシモ法文上ヨリイフトキハ條件アルモ相違ナク支拂フトイヒ得ルニ依リ之ヲ削リテ第二項ニ於テ明ニ之ヲ規定シ又手形カ信用證劵ナル以上ハ當然合法ノ原因ヲ有スルコトハ法文ヲ待タスシテ明ナルニ依リ之ヲ削除シタルモノナリ
つまり、語義を明確にするための改正だということのようだ。外国法を参照しているのだとすれば、この部分のネタもとの原文にあたってみる必要がある。最初は「相違なく」と訳したが、あとで「条件なく」に訳語を置き換えただけなのかもしれない(要確認)。
そして、現行商法(明治32年法律第48号)によって、つぎのように改められた。
第五百三十條 小切手ニハ左ノ事項ヲ記載シ振出人之ニ署名スルコトヲ要ス
一 其小切手タルコトヲ示スヘキ文字
二 一定ノ金額
三 支拂人ノ氏名又ハ商號
四 受取人ノ氏名若クハ商號又ハ所持人ニ支拂フヘキコト
五 單純ナル支拂ノ委託
六 振出ノ年月日
七 支拂地
規定振りも相等変化しているし、述語の使い方が大きく異なることから、旧商法と現行商法では、手形小切手の条文は、異なる法域の規定を継受しているように思われる(直感だけど)。「条件を付すことを得ず」なんてのは、なんとなくイギリスっぽい。それに比べて、現行法の「単純なる委託」は、かねてから指摘しているとおり、フランスっぽい。大陸風だ。
一説に拠れば旧商法の手形法の規定は仏、独、英法を参照し、現行商法はドイツ法一辺倒になっているという(誰がそんなこと言っていたのかは、後日要調査。田中耕太郎か?)。
ひとまず、きょうはここまでにする。
今後の予定:
野津務(昭12)『手形法変遷論』を読む(日大法学部にあり、NDC:325.61)
改定前の韓国法と、改定時の立法趣旨を調査
手形小切手法 その5
改正前の韓国手形法は、つぎのとおり。
어음法 [제정 1962.1.20 법률 제1001호]
第1條 (어음要件) 換어음에는 다음의 事項을 記載하여야 한다.
1. 證券의 本文中에 그 證券의 作成에 使用하는 …